柔らなタッチや色彩と不思議な側面とが混在する人物像を描く工藤千紘。2025年1月30日より開催される個展「Prelude」に向けて、創作の背景と今作に込められた想いを伺いました。
工藤千紘 Chihiro Kudo
1989年 青森県出身
2014年 名古屋芸術大学大学院修了
現在 岐阜県を拠点に活動
個展
2018 「Art×Structure」フォルテック一級建築士事務所、東京
2018 「ただ、息をする」ギャラリーヴァルール、愛知
2019 「誰そ彼」ギャラリーヴァルール、愛知
2020 「Pure White」ギャラリータグボート、東京
「影踏みをしなくなった日」ギャラリーヴァルール、愛知
2021 「Bittersweet」ギャラリータグボート、東京
「In Dreams」The Waluso Gallery、イギリス・ロンドン
「A」ギャラリーヴァルール、愛知
「蹴っ飛ばせ!」GALERIE OVO、台湾・台北
2022 「触れて、揺れる」ギャラリーヴァルール、愛知
2023 「 Emergence」ギャラリータグボート、東京
「まぶたのむこう」名古屋栄三越美術画廊、愛知
「どうしようもなく、光る」ギャラリーヴァルール、愛知
2024 「Beyond the Excuses」銀座蔦屋書店、東京
「うつる影、空っぽの光」ギャラリーヴァルール、愛知
Work
リーガルリリー 1stアルバム「bedtime story」 Illustration
― 今回の個展『Prelude』のタイトルに込めた意味や想いを教えてください。
『Prelude』というタイトルには、「始まり」という意味を込めています。これまでの制作でさまざまな挑戦を重ね、その成果を形にした今回の展示は、私にとって一つの終着点であり、新しい始まりでもあります。
この展示が「序章」となり、これまで作品を観ていただいた方にも、初めて触れてくれた方にも新しい気持ちを感じてもらえたらと思っています。
― 今回の個展で「やりたいことをすべて詰め込んだ」と伺いましたが、具体的にどのような挑戦をされましたか?
今回の個展では、これまでの制作手法に加えて、新たな素材や技術に挑戦しました。例えば、変形パネルを使用し、手芸屋で布を一から選ぶことで、自分のイメージに合う素材を追求しました。また、それぞれの素材特性に応じた下地作りにも注力しました。モチーフとしては「欠けた美しさ」をテーマに、髪や手で一部を隠す表現や、あえて下地を見せる手法を取り入れ、不完全さが生む魅力を追求しました。
「Glow」 42×81cm 木製変形パネル、麻布、白亜地、油彩
― tagboatの新しいギャラリーでの展示は初めてですが、どのような空間にしたいですか?
広々とした空間で、作品と空間が互いに調和する展示を目指しています。特に、私の作品は顔をモチーフにしたものが多いため、視線が分散されるよう工夫しながら、それぞれの個性が際立つレイアウトを考えています。作品ごとの独立性を保ちつつ、全体として一体感があり、訪れた方が心地よく過ごせる空間を意識しています。
― 変形キャンバスや綿布など、素材や形式の選択において意識したことや工夫した点は何ですか?
それぞれの素材特性を活かすことを心がけました。例えば、新しいパネルでは柔軟性と密着性を重視し、綿麻混紡を選びました。アクリル作品では吸い込みの良さを考慮し、また油絵とは異なる柔らかい筆致に合うように綿布を使用しました。一方、キャンバス作品の油絵では従来どおり麻布と白亜地の組み合わせを採用し、素材ごとに適したアプローチを意識しました。
制作風景
― 昨年の2024年からnoteを発信されていますが、発信のきっかけはありますか?また、工藤さんにとってnoteはどのような役割ですか?
noteは、自分の作品や制作プロセスを広く発信するためのツールとして活用しています。発信のきっかけは、作品だけでなくその背景や想いを共有することで、観てくれる方との距離を縮めたいと考えたことにあります。また、自分自身の記録としても活用しており、これまでの歩みを振り返りながら、次の制作に向けたヒントを得るきっかけにもなっています。
アトリエの様子
― ギーちゃんという愛称でChatGPTを使用されていますが、制作においてどのような場面で活用されますか?
ChatGPTは、アイデアの整理や新しい視点を見つける際に役立っています。特に、展示までに必要な準備や、抽象的な感情を具体的な文章に起こす際の手助けになっています。ギーちゃんと対話することで、自分の中にある曖昧なアイデアを形にしやすくなり、制作の方向性を明確にするサポートとして活用しています。
― ほのぼのとした雰囲気の中に奇妙さや可愛さを描く際、どのようにバランスを取っていますか?その感覚はどこから生まれるのでしょうか?
私の根底には孤独感があり、その中で生き抜いてきた「強さ」を集めて描いています。イメージの中心には負の感情があるものの、それを濾過して残る「強さ」や「希望」を作品に表現しています。また、髪や手で一部を隠したり、パネルの欠けた部分を利用して、不完全さを意図的に取り入れています。さらに、下地の色をあえて残したり、荒々しい仕上げを加えることで、完璧ではない美しさを追求しています。これらを通じて、自分の中の揺らぎや不完全さを受け入れ、作品として昇華させています。
個展メインヴィジュアル「Lost Memory」 F130 (194×162cm) 麻布、白亜地、水彩、油彩
― この個展を通じて、鑑賞者にどのようなメッセージを届けたいですか?
「そのままでいい」というメッセージを届けたいと考えています。人は誰しも欠けた部分を持っていますが、その欠けこそが美しさや魅力を生み出す重要な要素になり得ると信じています。作品を通じて、観る人が自身を肯定できるような気づきや対話が生まれることを願っています。
― 今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
試行錯誤を重ねてきた段階から、さらに一歩進み、作品の質を高めることに力を注ぎたいと考えています。これまで「上手く描けない」という思いから手を描くことを避けていましたが、今回は少しずつ描けるようになった手応えを感じ、その挑戦として手を作品に取り入れました。
これまでの制作では、描けないなりに短所を長所に変えようと工夫しつつ、もっと描けるようになりたいという向上心を持ちながら取り組んできました。その両面を意識することで、自分の表現を広げる大きな糧となっています。今後は、作品の完成度をさらに向上させながも「短所を長所に変える」という姿勢を大切にし続けたいと思います。不完全さや未熟さを受け入れ、それを作品の魅力や個性として表現に繋げることで、表現をさらに深めていきたいと考えています。
工藤千紘 Chihiro Kudo |
2025年1月30日(木) ~ 2月18日(火)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日1月30日(木)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:1月30日(木)18:00-20:00
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatにて、現代アーティスト・工藤千紘による個展「Prelude」を開催いたします。
工藤千紘は、名古屋芸術大学大学院を修了後、「損保ジャパンFACE展」や「シェル美術賞」で入選し、その実力が高く評価されてきました。
柔らかなタッチと滲むような色彩で描かれる人物像には、優しさや穏やかさだけでなく、どこか不安や怖さを感じさせる静かな迫力があります。誰もが抱える不完全さや揺らぎが生む魅力を描き出すことで、私たちに内側の深い真実をそっと映し出します。